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tedazuma

我こそが滝川一益 少年期 その二


 その従姉妹衆の中に一人の家臣の娘が居た。孫兵衛の妹小夜であった。


 それから二人は皆と一緒に稽古に励んだ。従姉妹達や周りの者は久助の事を「若」と呼んでいたが、小夜だけは「久」と呼び捨てにしていた。兄弟子指導員的な孫兵衛も小夜に「これいい加減にしなさい」と注意すれども、その呼び方は直らなかった。お互い競い合う兄妹の様であった。そして久助もそう呼ばれることを気に入っていたようだ。若と呼ばれるより心地が良かったのだろう、そんな小夜が好きだったのでしょう。

 

 ある日稽古に小夜の姿が無かった。従姉妹の一美に聞くと小夜は病で寝込んで居るとの事。久助は素早く、小さい頃母のおとぎ話で聞いたあの青い花の話しを思い出した。


  昔々油日岳の山道を歩いていた修行者が、一匹のうさぎを見つけました。よく見ると、そのうさぎは雪の下からリンドウ(竜胆)を掘りだして、しきりになめていた。 修行者はうさぎのその行動を不思議に思い、うさぎに問いました。するとうさぎは「私の主人が病に伏せっています。病を治すため、この草を探していたのです。」と答え、いそいそと山の中に消えていきました。

 修行者は、うさぎに教えられたその草の根を、うさぎと同じように雪のなかから掘り出しました。彼は、試しにその草の根を病人に飲ませてみると、どうやらその草には本当に優れた効果があることが分かりました。 修行者は、ありがたい二荒神のお告げに違いない、と大層感謝しました。

 後に、甲賀ではリンドウ(竜胆)を霊草とする風習となた。


 この話を思い出し久助は翌朝早く、夜も開けぬ暗いうちから油日山へと向かった。しかし探せど探せど青い花は見つからず、一日中山を駆け回った。日も暮れかけた夕刻に忍者岳の峠から下を眺めたら、遥か下に青い花が咲いているではないか。久助は迷わず草木や蔓などを伝い、降りていった。その時蔓が根元から抜け、久助は谷に落ちた。真っ暗な闇の中に消えて行く自分を感じた。

 ガサガサと音がして気が付いた時、朝であった。軽いかすり傷で大きな怪我は無い。ふっと手元を見ると青いリンドウを握りしめ、そこには兎の糞がポロリと落ちていた。そんな不思議な事にも久助は驚かず、ニヤリと微笑んだ。久助は小さい頃から死にかけた小鳥を介抱して助けたり鳥や動物と話しすることが出来たのだ。

 

 その時兄弟子の孫兵衛が探し助けに来てくれた。 「若なんでこんな処おるのじゃ、大丈夫か?」 久助は「小夜が病だから青い花を探しに来た」と無愛想にこたえた。孫兵衛はこの時久助が妹に好意を持っている事に気付いたが、複雑な気持ちでもあった。久助は無造作にリンドウの花束を孫兵衛に渡し、いそいそと山に消えていった。


続く


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